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福岡高等裁判所 昭和34年(ネ)761号 判決

熊本相互銀行

理由

控訴人山田秋義が別表(省略)中1、2の、控訴人合資会社丸山商店(以下単に丸山商店という)が別表中3乃至13の各約束手形をいずれも補助参加人の商号改称前の合資会社富士礦油店(以下単に富士礦油店という)宛に振出し、富士礦油店がこれらの手形を別表記載の各裏書日に被控訴人宛それぞれ裏書譲渡したこと及び被控訴人が右各手形の支払期日(但し別表中3の手形はその支払期日の翌日)に支払場所において支払呈示をなしたところいずれもその支払を拒絶せられたことは当事者間に争がない。ところで被控訴人は別表中1乃至13の各手形(以下単に本件手形という)の裏書はいずれも支払確保のための裏書であると主張し、控訴人等及び補助参加人は右裏書は取立委任裏書である旨抗争するので先ずこの点について判断する。

証拠によれば、本件手形の表面上部欄外に「商手、No.、本店営業部熊本相互」の記号が記載されており、富士礦油店の裏書欄に取立委任の文言の記載がないこと、被控訴人の手形貸付担保、譲渡手形補助記入帳に本件手形がいずれも不渡として記入せられていること、被控訴銀行においては商業手形(割引手形、或は支払確保のための手形)を受取つた場合、手形表面の上部欄外に前記のような記号を記入し、その手形の支払があつた場合には帳簿に「済」の印を押していたこと、富士礦油店は昭和三十二年十二月頃合資会社吉原礦油店と商号を改称したが富士礦油店は昭和二十八年の大水害後資金繰が悪くなり、昭和三十一年十一、十二月頃から同店持参の手形が屡々不渡となり、本件手形の裏書当時被控訴人に対し約百五十万円余の負債を生じていたこと、さらに、本件手形はいずれも富士礦油店が被控訴人に対する負債の支払確保のため被控訴人宛に裏書譲渡したものであることがそれぞれ認められる。尤も証拠によれば富士礦油店裏書の約束手形でその表面上部欄外に前記の記号が記入せられていて、而も裏書欄に取立委任なる文言の記載のあるものも存するので前記の記号が記入せられていることが必ずしも商業手形であることの決め手とならないとも考えられるのであるが、他の証拠によれば、被控訴銀行においては商業手形を受取つた場合第一銀行を通じて取立をしていたところ、同銀行の要求で商業手形についても取立委任なる文言を記載していたが昭和三十一年三月被控訴銀行の貸付係課長が交替し、同課長の要求で支払確保のため受取つた手形は取立委任なる文言を使用しないことに取扱を変更し乙第一号証の一、二の手形は右取扱変更前のものであることが認められるので、同号証を以て本件手形における富士礦油店の裏書が取立委任裏書であることの証拠となし得ない。他にこれを認める証拠はない。

次に控訴人等は富士礦油店に対し本件手形金を別途に支払済であるので被控訴人に対し支払義務はない旨抗争するけれども、これに副う証拠は措信できない。仮に控訴人等が富士礦油店に対し右弁済をなしたとしても、被控訴人が本件手形の裏書譲渡を受けた際被控訴人において右弁済の事実を知つていたとの点について何等主張立証のない本件においては控訴人等の右抗弁は採用できない。

そうだとすれば控訴人山田光義は別表中1、2の手形の、控訴人丸山商店は別表中3乃至13の手形の各振出人として被控訴人に対しそれぞれ別表記載の手形金及これに対する各支払期日の翌日(但し別表3の手形については支払期日の翌々日)以降の各完済まで年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、結局これと同旨の原判決は相当であり本件控訴はいずれも理由がない。

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